Delayed GratificationとInstant Gratification

高年収層は便意我慢する傾向

便意を我慢する人のほうが平均年収が高いというような論旨の記事が出ていた。最初は馬鹿げた話だと一笑に付していたが、どうも気になる。はずがしながら最近だいぶトイレが近くなってしまったのだ。このまま行くと収入がどんどん下がってしまうのではないかという、恐怖心に駆られてこの事についてちょっと考えてみた。

Delayed gratificationというのは心理学の用語で「将来のより大きな成果のために、自己の衝動や感情をコントロールし、目先の欲求を辛抱する能力」という意味である。脳科学やポジティブサイコロジーの洋書を読んでいると頻出する単語なのだが、Wikiの日本語ページも無いし、英辞郎にも載っていないところをみると、どうも日本語訳がまだないらしい。

反対の意味の言葉はinstant gratificationになると思う。つまり「将来のことを考えると好ましくないのだが、自己の衝動や感情をコントロールすることができずに、目先の欲求に負けてしまうこと」になるだろう。instant gratificationの追求が極端にひどくなると衝動制御障害 (ICD (Impulse Control Disorder)) と呼ばれる精神疾患を患い、放火、窃盗、病的賭博などの反社会的行動を取るようになってしまうという。

偉人でもなければ精神疾患者でもない一般庶民の大多数は、instant gratificationにしばしば負けつつも、生活が崩壊するほどは負けていない人たちだと思う。たとえばジャンクフードの誘惑にしばしば負けて自分の理想とする体重よりもだいぶ重くなってしまっているとか、ついついリボ払いでクレジットカードを使ってしまい、貯金が一向にたまらないとか、健康を考えると煙草をやめたほうが良いのは分かっているが、どうしても禁煙できないとか、そういう人は多いと思う。

かくいう私ももう少し痩せたいと思いつつBMI27程度のプチ肥満状態が続いている。やはり一番の原因は小腹がすいたらすぐにジャンクフードを食べてしまっていることだろう。つまりinstant gratificationに負けているのだ。

私が自分の人生で一番痩せていた時期というのはインドにいた時期で、思えば当時は修行モード全開だった。断食はもちろん便意や尿意も極限まで我慢していた。あまりやり過ぎるのも、栄養失調や膀胱炎などのリスクがあって問題だと思うが、健康に問題ない程度に行う分にはdelayed gratificationを追求する上での訓練になるかもしれない。

トイレに行くことができずに不本意ながら尿や便を限界近くまで我慢した経験がある人はわかると思うが、あれは我慢している間は大変苦しいのだが、そのぶん放出するときの快感もまた大きい。

もちろん、便意を我慢することと収入との間に直接的な関係は無いと思うが、この習慣によりdelayed gratificationを追求する能力が向上する可能性はあると思う。そしてdelayed gratificationの適用範囲はこのような身体的な欲求に留まらない。

たとえば、医者になりたいので同級生たちが遊び呆けている間に勉強して、医者になってから高収入と社会的なステータスの高さをエンジョイするとか、同僚が通勤途中にスマホゲームで遊んでレアカードをゲットしようと夢中になっている間に、同じ時間を読書や資格勉強に費やして自分自身をレアな人材に育て上げるとか、そいうこともdelayed gratificationの顕れなのだ。だからdelayed gratificationを追求する能力を仮に「DG能力」とすると、便を我慢する習慣がある人は知らず知らずのうちにこのDG能力を強化していて、結果として高収入に繋がっているのかもしれない。

その一方で、大衆がinstant gratificationを求める傾向は年々加速しているようにも思われる。ジャンクフードやインスタント食品の氾濫は言うまでもないが、音楽にしてもヒット曲はイントロや間奏をできるだけ短くして、一番美味しいサビを1分以内に聴かせるようなものが多い。最近のテンポの良いハリウッド映画に慣れてしまうと、過去の名作を見ても途中で手持ち無沙汰になっていらいらして貧乏ゆすりをしてしまったりする。ベストセラー作家の東野圭吾の小説なども素晴らしくテンポがよく、文章の味わいを追求したり、情景描写に余計な文言を割いたりせずに、読者に素早く次のシーンを提供していく。手軽にできるブラウザゲームやソーシャルゲームの流行などもその一例と言っていいだろう。

そう考えると、自分の人生においてはdelayed gratificationを追求しつつ、自分の創作物や自分が提供するサービスは人々にinstant gratificationを提供するというのが、現在の世の中における成功の方程式なのかもしれない。

まぁ、私の人生にはちょっとdelayed gratificationが足りないと思われるので、ちょっとエクセサイズしてみようかと思う。とりあえずトイレにいくのを我慢しながらこの原稿を書いてみました。

“Delayed gratification is the key to success but make sure that your creations or services provide people with instant gratification.” – Yuga Kurita

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