新しいカメラが出たときにまず注目するのが動画機能。というかよほど大きくプリントしたいとか、よほど連射とAF性能が必要だとか、よほど高感度に強いとか、よほど下手くそでもとにかくシャッターボタンを押してりゃ撮れるとか、そういうニーズ以外、これ以上なにをスチルカメラに求めるのか? 業界としては『フルサイズミラーレス』をバズワードにして売りたいんだろうけど、一般的な消費者はスマホさえあれば良い。
一番頑張ってほしい基本的な性能であるダイナミックレンジはここ十年でせいぜい1~2EVぐらいしか広がっていないし、階調表現もたいして進化していない。実のところ静止画の画質なんて5DM2の頃からあまり変わっていない。真っ暗闇でも合焦するAFとか、ものすごく食いつきの良いC-AFとかそういう「誰でも撮れる」って部分の機能だけがどんどん進化している。
おかげで10年経ってもストックフォトとしての価値があまり下がらないのはありがたいけれど、デジタルオーディオの世界はあっというまに8bitのド素人が聞いても汚い音から24bitに進化したので、画像・映像の世界の進歩は本当に遅いなぁ、というのが実感。
だからD800とか5D3あたりを未だに使っているプロとしては、見栄と物欲いがいはあまり買い換える理由がない。プロの場合は浪費ではなくて投資なので、コスト管理がシビア。ようするに機材を買うことで収入が増えないと意味はない。
例外的にすごく儲かっている人は特に必要性がなくてもどんどん買う。特に30万以下のクラスならば、経費として一括算入できるので、どうせ税金でとられるんだったら買っちゃうか〜みたいなのりで買える。あとはメーカーの広告・販促サポートが生業のプロ写真家たちは、当然、自分のお客さんの製品を絶賛して、まるで買い替えが必要かのように煽る。それがお仕事なので。でも実際に成果物を販売して生計を立てるプロにとっては、静止画の画質のために新しいカメラに買い換える必要性は薄い。
ま、とにかくここ10年でスチルカメラの機能は良くなったけれど、画質自体はあまり進化していない。
そんななかで劇的に進化しているのが一眼カメラについている動画機能。GH5なんて動画9割、静止画1割ぐらいの割合で使っています。それに動画のほうがスチルよりも儲かる。というかたいして儲からないけど、スチルほど過酷な状況ではない。先日、NYCのタイムズスクエアの映像を360 VRでみて驚いたのたけど、広告は殆ど大型TVになっている。都内をドライブしているときも広告募集中のビルボードがすごく目につく。大型TVに置き換わっている以上に、スマホがターゲットの広告が増えているので、高画素機とかなんに使うの? って感じはかなりする。スチルの広告写真はこれからもどんどん動画に置き換わるわけで、こんな状況でスチルカメラに多大な出費なんてしてられないのです。でも、プロ用の動画機としてみるとすごくコスパが良い。
動画の世界には「名前がでるだけで大喜びして、無料で喜んでプロの仕事をしちゃうハイアマ」がほとんどいない。この点も大きい。そういう「名前がでるだけで大喜びして、無料で喜んでプロの仕事をしちゃうハイアマ」がたくさんいる世界のプロは死に絶える定めです。ある程度以上の技能を持った層の大半が「名前なんてどうでもいいけど、金はしっかり払え」という業界じゃないと生活できません。クレジットを載せるから無料で写真を使わせてください、とか連絡してくるTV局、タヒね。とか思わず感情的になってしまいたくなるときもたまにある。
閑話休題。ま、そんなわけで今回のEOS Rもまずは動画機能に注目してみたが、なんと外部出力だと4K 10bitいける! これは思い切ったことをした。
キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFはソニーよりも更に評判が良いので、動画でAFを使いたい人にはすごく良さそう。この点、PANASONICもだいぶ良くなったけどまだまだ負けてます。ちなみにNIKONのAFは動画用としては論外なレベル。Zシリーズは試していないけど、この点に関してはまったく期待していない。
もしクロップなしの全画素読み出しならば、ソニーのαシリーズより動画用としては良いでしょう。ただし画素数が多いのでローリングシャッターは気になるかもしれません。Cinema EOSがあるのによくここまで出してきたなぁ、と感心しました。C200の購入を検討していた人はだいぶこちらに流れるでしょう。FS5、URUSA Mini-Pro、EVA-1あたりも含めて、安めのプロ動画機を買う意味がなくなってきています。
これでA7S3も10 bitに対応せざるを得なくなりましたね。もはやチキンレース状態。ソニーとキヤノンはプロ動画機を守るために出し惜しみしてきたけど、出し惜しみできない状態になりました。プロシューマー機で稼がないとならないプロには良いことです(笑)。
ニコンも最近動画がんばっているけど残念ながら周回遅れです。ただしタイムラプスに関してはニコンが一番良いと思います。ソニーは本体から機能削ったし、PANASONICはインターバル撮影中にISOやSS等をマニュアルモードでも変更できないので明暗差が激しい朝夕の使用は厳しい。Nikon機はタイムラプス中のバッファの使い方が巧みで、同じSDカードでもニコンだとディスクフルにならないし、シャッタースピードもギリギリ長く設定できる。GH5はUHS-IIの一番速いSDカードでも1秒間隔でRAWを撮ってると500枚程度で書き込みが間に合わなくなることがありますが、D800Eのような旧型機でずっと遅いCF/SDカードにずっと大きいファイル(36MB 14bit RAW)を1秒間隔で書き込んでもニコンでは999枚余裕です。0.5秒間隔で撮れるのもニコンだけ。露出平滑化機能もある。
しばらくは様子見ですが、キヤノンのRのほうがニコンのZよりは面白そうです。Z6/Z7だったらD850のほうがずっと良いカメラかな、というのが正直なところ。ミラーレスか否かという点に注目が集まっているけど、カメラとしてどちらが良いか、という点のほうがずっと大事だと思います。EOS Rの場合、少なくとも5D4よりはだいぶ良さそうに見える。
P.S. やはりローリングシャッタはかなり酷いようなので被写体を選びますね。
https://www.youtube.com/watch?v=SAZKPQRBREc